2017年4月の朗読法話「足元の小さなしあわせ」

新年度を迎えました。それぞれ新しい環境に胸ふくらませて初々しく臨まれていることと思います。昨年来、過剰な時間外労働を反省して働き方の改善が叫ばれていますが、尊いいのちが失われることなく穏やかな環境でスタート出来るよう念じます。

さて、「しあわせは自分のこころが決める」という言葉をお聞きになったことがあると思います。書家で、また数々の名言を世に出された相田みつをさんの言葉です。

豊かな環境に身を置いていても不満が消えない人もいれば、劣悪な環境でも心穏やかに過ごされる方もおられるでしょう。

昨年の暮れに亡くなられた渡辺和子さん(89)も名言を残された方ですが、『幸せはあなたの心が決める』という本を著わしています。渡辺さんのお父さまは陸軍教育総監を務めていた昭和11年2月26日(二・二六事件)に、青年将校らによって自宅で銃弾を浴びました。それを当時9歳の和子さんは目の前で見ていたのです。

幼い時の残酷すぎる経験がやがて信仰の道を歩ませ、また人々に愛を説き、与えられた環境や条件に対して、自分はどのようにそれを受け止めていくか、受け容れていくかが大切だと仰っています。

作家・佐藤愛子さん(93)の『それでもこの世は悪くなかった』という近刊本に幸せについて次のような紹介があります。

何年か前のある日の夕方、新潟と会津を結ぶ小さな鉄道に乗っていたら、同じ車両に女子高生がふたり、向かい合って座り教科書を広げていたそうです。ガラーンとした車内で、他に乗客もいないところで、教科書の同じページを広げて、お互いに何か言い合って勉強をしていた。傍らにポッキーの箱が置いてあって、かわるがわるつまんでは勉強を続けている。

その光景を見て、ああ、いいものだなあと思ったそうです。

やがて、一人がポッキーの箱を持って電車を降りた。そういえば、残った方の彼女は少し少な目で食べていたなあと。残った方の彼女も、そこから2つ、3つ先に行った駅で降り、改札口を通って夕闇の中に消えて行ったそうです。

佐藤さんは「彼女はこれからどういう家に帰るのだろうか。母親は夕飯の支度をして待っているんだろうか。それとも、働きに出ていて、これから彼女が夕飯の支度をするんだろうか。親父はどんな人だろう。妹はいるのだろうか」などと思ううちに、何となしに胸がいっぱいになり、こう呼びかけたくなったといいます。

「あなたは今、明日の試験のことで頭が一杯で、何でこんな勉強せんならんのか、と思っているでしょう。けれども、あなたは今が一番幸せな時なのよ。あなたはそれを知らないでしょう。その知らないでいるということが、あなたの幸せなのです」と。

お釈迦さまの言葉に「われは悩める人々の中にあって、悩みなく大いに楽しく生きよう。われは悩める人々の中にあって、悩みなく生活しよう」(法句経)とあります。

新年度を迎え、足元の小さなしあわせに気づきたく思います。

なもあみだぶつ、なもあみだぶつ。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA